研究概要 |
神経栄養因子は神経細胞や標的細胞で発現し,神経の成長やネットワークの形成,修復,その他の細胞の成長などに働く自己分泌・傍分泌物質であるが,特に脳由来神経栄養因子(BDNF ; Brain derived neurotrophic factor)は,脳の可塑性に影響する神経栄養因子である以外に,節食抑制やインスリン感受性調節機能を有する.このBDNFは血液脳関門を通過することに加え、末梢でも産生されることから、運動によるうつ症状および糖代謝能改善のバイオマーカーとなりうる可能性がある。申請者は、文部科学省科学研究費(平成20・21年度)の補助を受けて「脳由来神経栄養因子の運動生理学的意義に関する研究」を遂行し、運動の影響を含めメンタルヘルスおよび糖・脂質代謝能のバイオマーカーとしての意義を明らかにした.しかし、一般集団を対象とした前向き調査は行っていないことから、その因果関係は不明のままであった。そこで、本研究では、血清BDNFとうつ傾向や糖・脂質代謝能のバイオマーカーとしての意義に関して、身体活動や運動の影響を含め、運動疫学研究の観点から前向き研究デザインを用い検討を加えるものである.平成22年度は、成人男性の血清BDNFとうつ状態およびメタボリックシンドローム発現の関連性に関する前向き疫学研究を実施するためのコホート作成を行った。具体的には、約700名の男女勤労者を対象とした調査を修了した。この数値は、当初の計画の約2倍の対象者数である。また、身体活動・運動量は全対象に関して三軸の加速度計を用い評価している。全てのコホート設定はスムーズに進んでおり、当初の研究計画以上の成果が上がっており、極めて良好であると自己評価している。
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