高血圧症発症の要因のひとつとして、循環器系の神経性調節機能の異常、すなわち循環中枢の関与が重要視されている。しかしながら、循環中枢に関するこれまでの研究は、脳内における解剖学的な位置の同定や、単一神経細胞からの記録にとどまっており、機能的なシステムとしての実体は、正常な個体においてさえいまなお black box のまま残されている。本研究は、光学的イメージング法を適用し、個体発生過程の正常ラットと病態モデルラット(自然発症高血圧ラットなど)の循環中枢の機能応答特性を比較して、高血圧症発症のメカニズムについて、循環調節機能の破綻という新観点から検証を行うことを目指す。 昨年度は、E16の自然発症高血圧ラット(spontaneous hypertensive rat: SHR)の胎仔を用い、正常ラットと疾患モデルラットとの比較で、循環中枢神経回路網の機能的構築にどのような相違が見られるのかについて解析を行った。本年度は、より早い発生段階を中心に、シナプス機能の発現初期過程について比較検討を行った。E14のSHRラット胎仔から、迷走神経をつけた脳幹スライス標本を作製し、膜電位感受性色素NK2761で染色して、吸引電極を用いた迷走神経刺激に対する脳幹内応答のイメージングを行った。光学的シグナルの波形解析から、迷走神経に関連した運動核(迷走神経背側運動核)、感覚核(孤束核)を同定し、シグナルの定量的マッピングにより、各々の核の機能的構築を明らかにした。SHR胎仔の孤束核において、興奮性シナプス伝達機能は正常ラットと同じくE14から発現し、検出されたシグナルの大きさ、領域、シナプス後電位の生理学的・薬理学的特性などには、正常ラット胎仔との間で有意な差は見られなかった。
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