種々のスパイス刺激やカプサイシンなどによって、摂食ホルモン産生がどのように変化するのかを培養細胞系において再検討した。さらに別の遺伝子系にも検討を加えた。解析手法として、RT-PCR法、ウエスタンブロッティング法や蛍光組織染色法を用い、Jurkat細胞やHEK293細胞の他、U937やMKN7などで標的遺伝子を変えながら解析を進めた。この結果、各種香辛料やその成分のエタノール抽出液刺激によって、特定の遺伝子発現制御が起こりうることを示した。たとえば、SIRT遺伝子はブラックペッパーによって発現が低下した。その他、癌の発症や悪性化に関わるBRCA1の発現がセージなどのハーブ抽出液によって変化し、蛋白質分解を受けることを示した。また、大豆抽出液やその成分であるゲニスタインによってアミロイドプリカーサーからベータアミロイドをコントロールしているプレセニリン遺伝子の発現が減少した。これらの発現はmRNAレベルだけでなくたんぱく質レベルでも検出された。これらのことより、香辛料やハーブの成分には未だ知られていない遺伝子発現制御を介した有用作用があることが更に示された。これら研究成果を欧文論文として複数報で発表するなど、本研究助成によってH23年度も十分な研究の進展があった。香辛料が胃腸を単に刺激するだけでなく、各種遺伝子やマイクロRNAなどの遺伝子発現誘導を介して、積極的かつ機能的に食欲の調節を行うことを現在さらに検討中である。これらにより、味覚以外での香辛料の有意義な作用を論理的に再発見できる可能性が高まった。これまでの本研究でも明らかにしたように、分子栄養学分野や細胞生物学的に新たな知見をもたらしている。
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