食習慣・食行動が生活習慣病発症に及ぼす影響を科学的に明らかにすることは、食育を効果的に実践する上で必要な理論構築と新たな教育手法の開発に必須である。しかしながら、このような影響は個人差に左右されることから、従来の方法では評価が困難である。本研究では、疾患感受性遺伝子の同定に用いられる遺伝統計学的手法であるゲノムワイド解析を食行動感受性遺伝子の同定に応用し、生活習慣病の原因となる食習慣や食行動の受けやすさを規定する遺伝子を同定するとともに、これらの食習慣・食行動を規定する遺伝子の同定に挑戦しようとする取り組みである。本年度は、前年に引き続き明らかな動脈硬化性疾患の既往歴がなく、喫煙やアルコール依存症などの経歴のない健常者を対象にインフォームドコンセントを実施し、同意の得られた被験者を対象にリン負荷に対する血清マーカーおよび血管内皮機能検査の変動について検討を行った。その結果、リンの摂取量が同じでも、食後2時間の血清リン濃度が上昇しやすい人ほど、血管内皮機能の低下割合が大きいことを見いだした。これらの結果は、ごく最近になりゲノムワイド解析により血清リン濃度を規定する遺伝子多型が明らかにされたように、食事摂取と血清マーカーおよび血管内皮機能との関連を明らかにする上で、今回用いたリン負荷試験の手法が個人差を解析する上で有用な手法となることを示している。今回のような食事を活用することで、血管保護あるいは血管侵襲的に作動する食品成分・栄養成分の同定、さらには遺伝的背景を組み合わせた評価手法を行うことが可能となることが示唆された。このような手法を応用させていくことで、個人に適した食事指導・食育を進めていくことが可能になると考えられた。
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