研究概要 |
本研究実施者らは,学習者の導いた誤答を仮に正しいとした場合に,どのようなおかしな事象が導けてしまうかを推論する「誤りベースシミュレーション」に関する研究を,主に誤りへの気づきの促進を指向した誤りの可視化技術の一つとして進めてきた.近年,このシミュレーションを中学校理科の授業において実践的に用いる試みを行っているが,単に誤答が修正されるだけでなく,誤答の背景に存在する概念の修正自体を効果的に促進していることを窺わせる結果を得ている.誤りベースシミュレーションを概念変容に用いる反例の一種と捉えた上で,(1)この反例(本研究では思考実験型反例と呼ぶ)を用いた場合の概念変容のプロセスを解明し,(2)その有効利用法を明らかにすること,が本研究の目標となる.平成22年度においては,概念変容プロセスに関する情報収集・分析を目的としたシステム改良を行い,個々の思考実験型反例が示唆する力の入力の誤りの抽出と,学習者の修正操作に沿ったものとそれ以外の分類,を行う機能を実現した.また,自動的に学習者の修正過程が再現される機能も組み込んだ.これのシステムを用いた小規模な実験を行い,これらの機能が有効に働いていることを確認した.また,事例的には概念変容とみられる学習者の変化が確認できた.平成23年度においてこのシステムおよび結果を踏まえて,より大きな規模での実践的利用を行い,概念変容に貢献する反例及び貢献しない反例の分析と,それらに基づく概念変容のモデル作りを行うことを予定している.
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