研究概要 |
今年度のわれわれの主たる目標(そして研究の最終段階におけるわれわれの立脚点)は次の通りであった.1)T.Kuhnのパラダイム論以降の「新科学哲学」に影響を強く受けている,知識構築に関する社会(的)構成主義に対して,批判的立場から本研究の視座(パースペクティブ)を確立させること.2)学習空間という相互作用系を分析するためのフレームワークとして学習科学の分野でも注目されている複雑系科学について,単なるメタファーやアナロジーではなく,本来の意味における応用の可能性に関する視座(パースペクティブ)を確立させること.このうち今年度は主として2)に特化した研究を行ない,相互作用生命系の領域で主要な研究アプローチとして認められている「構成的アプローチ」を学習科学研究へと応用することを試みた.教育工学や学習科学の領域ではほとんど採用されてこなかったこのアプローチを採ったのは,それが「複雑現象の理解へと到達する唯一の方法を与える」とされているからである.特に協調的な学習活動は,相互作用生命系と同じように,個別性と歴史性,相互作用と非線形性を持つ現象と考えられるため,構成的アプローチによる学習現象への接近は有効な戦略的方法であるとわれわれは判断した.そこでわれわれは2次元スピン系のイジングモデルを使って協調学習の解析を行なった.その結果,学習空間内での相互作用効果はここに導入された学習者間の繋がり(ネットワーク)の構造に対応して差異をもたらすことを発見した.この研究の結果は情報システム教育学会誌に採択された.
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