研究概要 |
本研究は、わが国の文化遺産国際協力において、文化遺産の防災対策に関する国際的な活動と戦略に関する現状について、近年の災害地震を対象とした調査を行い、その課題を抽出し、今後、わが国の防災工学とくに耐震工学に関する役割を明確にすることを目的とする。さらに、この分野において、国際的に主導的な役割を果たせるように国際的なネットワークを構築することを目的としている。 本研究の研究期間は2年間であり、本年度は2年度目である。初年度に引き続き、国際機関ユネスコ・イコモス(国際記念物遺跡会議)の動向調査および近年の大地震で被災した文化遺産の修復と復興に関するフォロー調査をギリシャ,ニュージーランド、インドネシアにおいて実施した。とくに、2011年3月11日東北地方太平洋沖地震で多くの文化遺産が被災したことを受け、この災害の経験を国際的に共有するために、文化遺産の被災状況を海外に発信するとともに、英文報告書を作成し、国際学術委員会(歴史的建築物の構造修復と解析に関する委員会)等で報告した。同委員会は、5月にキューバ・ハバナ、11月にパリ・ユネスコ本部で開催され、日本イコモスを代表して出席した。ハバナ会議では、とくに中南米の文化遺産の自然災害対策について情報を得た。パリ会議では、ユネスコ・イコモスにおける文化遺産の地震災害対策の動向を把握した。 今年度は、わが国の文化遺産国際協力における耐震工学の役割に関する動向を把握するために、外務省広報文化交流部および文化庁文化財部において、ヒヤリングを実施し、耐震技術が国際的なプレゼンスの向上に果たす役割が大きいことを確認した。 近年の大地震で被災した文化遺産の災害対策に関する動向調査では、1999年アテネ地震で被災した世界遺産建築で行われている構造モニタリングの状況を視察し、被災建物の構造安全性評価におけるモニタリングの有効性を確認した。このことをふまえ、2006年ジャワ島中部地震で被災した世界遺産のモニタリング調査を実施している。また、2011年ニュージーランド地震で被災した文化遺産の被害および修復状況を視察し、文化遺産の修復に関するネットワークを構築した。
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