研究課題
がん細胞は、腫瘍内の血流不足による局所環境の悪化に応答し、より有利な微小環境を再構築する。また、がん細胞は、外来性脂質の多寡にかかわらず脂質の新規(de novo)合成を盛んに行うが、その意義は不明である。本研究では脂質メタボロミクスを動員し、がん細胞内で働きが盛んになった脂質代謝系が、がん細胞自身および腫瘍内微小環境の再構築プロセスにどのような影響を与えるのか、その分子基盤も含めて明らかにすることを目的とする。今年度、様々ながん細胞株において一連の脂質代謝酵素群の遺伝子発現をノックダウンすると、細胞増殖の抑制が観察された。酵素群の中でノックダウンの効果が最も顕著であったATP-クエン酸リアーゼ(ATP-citrate lyase : ACLY)についてさらに解析を進めたところ、この遺伝子のノックダウンに伴う細胞増殖抑制は、細胞内活性酸素(ROS)レベルおよびAMP活性化蛋白質キナーゼ(AMPK)のリン酸化(活性化)レベルが低い細胞株で特に顕著であることが明らかとなった。このような細胞株では、ACLYのノックダウンによる増殖抑制に伴い、ROSおよびAMPKリン酸化のレベルが亢進した。重要なことに、抗酸化剤によるROSの阻害は、この細胞増殖抑制を効果的に解消した。これらの結果から、ROSおよびAMPKは、ACLYノックダウンによる細胞増殖抑制の媒介因子である可能性が示唆された。一方、定常状態においてROSおよびAMPKリン酸化のレベルが高いがん細胞株は、ACLYノックダウンによる増殖抑制に耐性を示した。ACLYノックダウンによる細胞増殖抑制の詳細な分子機構および腫瘍内微小環境ストレス応答に対するACLYの影響を次年度以降に調べるため、その準備検討として、ACLYをノックダウンもしくは過剰発現させた細胞についてのトランスクリプトーム解析および脂質メタボローム解析に着手した。
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