セリン・スレオニンキナーゼPimは、マウス染色体へのレトロウイルス挿入に起因するがん化に関連する原がん遺伝子として同定された。研究代表者らは平成22年度に、Pimの新規基質としてp27^<KiP1>を同定し、さらにPim-1とp27^<KiP1>ペプチドとの共結晶をX線構造解析することで、新規Pim阻害剤創製のための構造的基盤情報を得ることに成功していた。また、アルギニン残基が8個つながった細胞内移行シグナル(R8)をp27^<Kip1>ペプチドのN末端に付加することで、がん細胞にアポトーシスを起こす細胞内移行Pim阻害剤の創製に成功していた。そこで本年度は、このペプチドの抗腫瘍効果をヒト前立腺がん移植マウスxenograftモデルで検討し、抗腫瘍効果を確認することに成功した。タキソールとの併用により、in vivoでの抗腫瘍効果が増強することも見いだした。一方で、X線結晶構造解析の結果より明らかとなっていたPimとp27^<Kip1>の結合に関わるアミノ酸に変異を入れた変異ペプチドを合成して同様に抗腫瘍効果を検討したが、抗腫瘍効果は認められず、本ペプチドの特異性を確認することに成功した。Aktは。p27^<Kip1>をPimと同様にリン酸化することが知られている。そこで、本ペプチドのAkt抑制活性を検討した結果、Aktの活性も抑制されることが確認された。PimとAktはがんにおいて高発現あるいは活性化していることが知られており、両者とも創薬標的として注目を集めている。本ペプチドがPimキナーゼとAktキナーゼを両方とも抑制することから、本ペプチドをリード化合物とすることで、Dual specificityを持った優れた抗腫瘍薬を創製できる可能性が示唆された。
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