研究課題
挑戦的萌芽研究
植物にとって窒素(N)は必須栄養素の一つである。一般に植物は根から取り込んだ硝酸(NO_3^-)やアンモニアを窒素源として利用していると考えられている。しかし酸性雨などとして知られるように、降水はNO_3^-を土壌水と同等か、それ以上の高い濃度で含んでいることが知られている。そこで本研究は、植物が葉などを通して大気からの沈着に由来するNO_3^-を直接取り込んでいる可能性について、植物体内から抽出したNO_3^-の同位体組成を指標に検証した。本研究では、特にNO_3^-の三酸素同位体組成(Δ^<17> O)に着目した。Δ^<17> Oはオゾン(O_3)が関係した大気中の光化学反応で値が増大するのに対して、一般の化学反応では変化しないという特徴がある。それゆえ、大気NO_3^-はΔ^<17> O=+25‰前後の大きな値を示すのに対して、土壌中で硝化等によって生成するNO_3^-はΔ^<17> O=0‰となる。植物体内のNO_3^-のΔ^<17> Oを測定する事により、大気から直接取り込まれたNO_3^-が存在するかどうか、正確に判別する事が可能である。試料は、北海道大学北方生物圏フィールド科学センターの雨龍研究林を中心とした北海道内の山林に自生していた植物で、特に普遍的に存在する笹を中心に、数種の植物の葉や茎、根を採取した。採取した植物は超純水を用いてよく洗浄した後、凍結乾燥してから粉砕し、超純水にて振とう抽出を行った。抽出された水溶液中のNO_3^-は、まずCd還元法を用いてNO_3^-をNO_2^-化した上で、N_3H試薬を用いてN_2O化し、連続フロー型質量分析計に導入して同位体組成を定量した。分析の結果、植物の特に葉において最大でΔ^<17> O=+18‰もの大きな三酸素同位体異常が観測された。一方、根や茎などではあまり大きな異常は観測されなかった。以上の事実から、植物中では根以外に葉から直接的にNO_3^-を体内に取り込むプロセスが存在することが確認された。植物体内のNO_3^-のΔ^<17> Oは、植物中の窒素取り込み過程の違いを識別できる有用な指標となり得る事が示された。
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