海洋において、ウィルスの大規模な空間分布パターンの解析を行うとともに、そのようなパターンが現れる機構を、観測と実験的な解析から追及することで、海洋生態系の重要な構成員であるウィルスの空間分布の支配機構に関する理解を深化させることを目的として研究を進めた。平成23年度は、学術研究船白鳳丸KH-11-10次航海(平成23年12月24日~平成24年1月25日)において、南太平洋亜熱帯海域におけるウィルスの空間分布と、関連する環境パラメータの観測を行った。また、紫外線照射によるウィルスの消滅率を測定する実験を4定点において実施した。表層、亜表層および深層において採取した海水の濾過液を石英管につめ、甲板水槽で12時間培養を行い、明暗条件下でのウィルス消滅率の比較を行った。ウィルス計数のためのサンプルを経時的に採取し、グルタルアルデヒドで固定後、冷凍保存した。陸上研究室においては、サンプルをサイバーグリーンIで染色後、フローサイトメータによる解析を行い、培養期間中のウィルス数の変化を精査した。得られた結果に一次反応モデルをあてはめ、ウィルス消滅率を算出したところ、表層サンプルにおいては、ウィルス消滅率は、明瓶と暗瓶で有意に異ならなかった。それに対して、1500~3000mの水深から採取した深層サンプルにおいては、明瓶におけるウィルス消滅率が、暗瓶におけるウィルス消滅率を有意に上回ることが明らかになった。以上の結果は、表層のウィルスが、紫外線照射に対する「抵抗性」を有している可能性を示唆しており、本研究の仮説を支持するものである。また、この結果は深層におけるウィルスの分布の理解のうえで重要な意義を有する。本研究において得られた、海洋における大規模なウィルスの分布パターンに関する知見は、海洋生態系・生物地球化学に関する国際研究プログラムであるIMBERの日中韓シンポジウムにおいて報告した。
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