研究概要 |
生態系内の食物連鎖構造を知る手段として、接餌過程での窒素と炭素の安定同位体比:δ^<15>N、δ^<13>Cの濃縮係数を測定する方法が広く使われてきている。これは栄養段階(Trophic Level:TL)と共に、一定の濃縮係数のもとδ^<15>N,δ^<13>Cが増加することによる。しかし、δ^<13>C値の変動について充分な検討がなされていないため、TL解析手法は主にδ15Nの変化量を中心に行われてきた。本研究課題は、「窒素・炭素の同位体効果は、一次生産者の代謝過程が上位のTLにまで影響を与える重要な役割を果たしている」という作業仮説のもと、陸域、海域、水域のデータを用いて食物連鎖のδ^<15>N-δ^<13>Cマップ上の勾配を比較し、生理生態に基づいた物質循環解析法を新たに創出することを目的として研究を行った。 異なる生態系(食物連鎖)間のΔδ^<15>N/Δδ^<13>Cについて統計的な解析を行った所、生態系間に大きな違いが無く、摂餌過程における窒素・炭素同位体分別に関して、食物網を通して「δ^<15>N=(1.53±0.25)δ^<13>C+各地域の定数(p<0.05)」の共通式で表されることを見出した。この結果から、一次生産者のδ^<15>N,δ^<13>Cが生息する環境条件によって決定されること、また食物連鎖上において低次動物から高次動物まで直線関係が引けることから高次動物まで持続的にΔδ^<15>N/Δδ^<13>Cが受け継がれていることが考えられた。食物連鎖とδ^<15>Nの関係についてWada et al.(1987)が良く知られているが、これを第一経験則とするならば、本研究で見出したΔδ^<15>N/Δδ^<13>C=1.62±0.24は、安定同立体食物連鎖解析の第二経験則の発見といえる。この結果を、Aitaet al.,2011にまとめ、J. Plamkton Res.においてFeatured Articleとして掲載された。更に陸水域のデータについて検証した結果をWada et al.,2012にまとめEcol. Res.に投稿した。本課題ではΔδ^<15>N/Δδ^<13>Cの一定の共通式を見出したが、TL=2以上の動物からΔδ^<15>N/Δδ^<13>Cを導き出しているため、高次もしくは寿命が長い生物の食物連鎖上において特に有用な一般式となる。今後の研究の展望として、この共通式を元に食物網、食物連鎖の区分なく、一次生産者を含めたΔδ^<15>N/Δδ^<13>Cの一般式の提示、更に生物の同位体比からΔδ^<15>N/Δδ^<13>Cの一般式を使って一次生産者や食物網内の同位体比の推定が可能となると期待できる。
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