環境化学物質の生物体内への蓄積特性を検証する際、その生物の生態学的特性を考慮することは、環境保全の観点から極めて重要である。しかしながら、そうした因子を考慮した系統的な報告はこれまで皆無であった。本研究は、沿岸生態系を脅かす有機スズ化合物及び新規防汚塗料に着目し、同種であるが異なる生活史をもつ海と川を行き来する通し回遊魚に着目し、回遊様式の違いに伴う有機スズの蓄積特性について、耳石の微量元素と体内有機スズ濃度を測定することにより解明することが目的である。本年度は、2つの回遊様式をもつサケ科魚類のSalmo truttaに着目し、その回遊履歴に伴う有機スズ化合物の蓄積特性について検討した。日本沿岸域よりSalmo truttaを採集し、耳石の微量元素(ストロンチウム、カルシウム)の分析により、各個体を2つの回遊様式(降海型、淡水型)に分類した。同時に各個体の肝臓中の有機スズ化合物の濃度を定量した。降海型は、淡水型と比較して顕著に有機スズ化合物の濃度が高いことが示された。よって回遊魚では、海に滞在する期間が長い個体ほど有機スズ化合物のリスクが高まることが明らかになり、たとえ同種であっても回遊様式の違いによって有機スズ化合物に対するリスクが異なることが示唆された。本成果は、現在国際誌に投稿中である。
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