研究概要 |
日本が環境政策の中核として進めている低炭素社会,循環型社会を具現化するにあたり,下水処理場やごみ焼却場に代表される静脈系施設が担う環境保全機能をマルチプルリスク管理技術拠点へと転換していくことが求められる.下水処理場では,汚泥消化槽を設置して地域のバイオエネルギー供給基地化を進めるとともに,今世紀中の枯渇が憂慮されるリンの回収拠点としても更新していくことが必要とされている.こうした下水処理場側の更新施策の動向を考慮すると,下水処理場に設置された汚泥用消化槽で厨芥を受け入れることにより,消化ガス産出量を増加させるとともに,汚泥・厨芥の両方からのリン回収が可能となる.下水処理場による厨芥受入事業は,石川県珠洲市が2007年8月より事業系生ごみの受入事業を,北海道北広島市が2011年4月より家庭系生ごみの受入事業を先駆的に開始しており,事業の広がりが期待されている.本研究では,汚泥処理場における厨芥の消化槽受入施策,勢定枝の汚泥乾燥熱利用施策を,脱水汚泥の増加が焼却・燃料化工程にもたらすマルチプルな影響を,ごみ焼却場側の排熱発電の高効率化も取り込んで評価することを研究の目的とした.神戸市を評価対象とし,現有設備の更新が終了する2030年におけるエネルギー消費量,温室効果ガス排出量,リン回収量,事業コストの評価を行った.更新ケース3-C(厨芥:消化槽受入,脱水汚泥:熱分解ガス化・発電,勢定枝:汚泥乾燥熱利用)は,標準的なケース1-A(厨芥:焼却・排熱発電,脱水汚泥:高温焼却)と比較して,年間でエネルギー供給量436TJの増加,温室効果ガス排出量37kt-CO2eq.の削減,リン回収量93t-Pの増加,事業コスト3.5億円の削減が達成できると推計された.
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