研究課題
ゲノム染色体は、遺伝情報だけでは規定できないエピジェネティックスな制御を受けている。近年の目覚ましい研究進展により、ヒストンのリン酸化やアセチル化など多様な翻訳後修飾の実体力明らかになり、エピジェネティックスによるゲノム制御の解明が進められてきている。さらに翻訳後修飾の一部がDNA修復に重要な役割を果たすことが明らかとなり注目を集めている。最近、ATRの主要なエフェクター分子であるChk1がヒストンH3のThr11をリン酸化してクロマチンを制御することが報告された。また、DNA損傷時にはChk1がリン酸化され、クロマチンから遊離することでヒストンH3が脱リン酸化される。この研究成果により、ATRシグナル経路の先天的欠損症が、ヒストン修飾に異常を持つ「クロマチン病」である可能性が示唆された。本研究では、この点を明らかにするために、ATRシグナルに異常を持つ患者細胞(ATRセッケル症候群およびPCNTセッケル症候群)を用いて、Chk1とヒストンH3のリン酸化状態を、種々のDNA損傷状態の前後で検討した。まずATRシグナル欠損症の細胞が、ハイドロキシウレア処理または紫外線を照射しても、Chk1のリン酸化とヒストンH3の脱リン酸化が起こらないことを確認した。次に、定常状態(DNA非損傷時)で、ATRシグナル欠損症のヒストンH3リン酸化レベルを正常細胞と比較検討した。その結果、ATRセッケル症候群は正常細胞に比べてヒストンH3の脱リン酸化が約50%に低下していた。さらに、PCNTセッケル症候群は、正常とATRセッケル症候群の中間の応答性を示した。以上の結果から、ATRシグナル欠損症はグローバルな遺伝子発現低下を共通病態とする「クロマチン病」の可能性が高いと考えられた。
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