研究概要 |
喫煙が潰瘍性大腸炎の発症を予防することが報告されている。しかしその臨床効果を説明しうるメカニズムは未だ不明である。本研究は、タバコ煙には芳香族炭化水素受容体(AhR)を高度に活性化する作用があるという事実をもとに、「喫煙はAhRの活性化を介して潰瘍性大腸炎の発症を抑止する」という仮説を検証することを目的とした。 申請者らが開発したDRESSAマウスは、マーカー酵素であるSEAPの定量により、体内に於けるAhRの活性化をモニタリングすることを可能にする。昨年度の検討ではまず、このセンサーマウスを用いて、喫煙が体内におけるAhRの活性化を誘導するか否かを検証した。具体的にはDRESSAマウスにタバコ煙を曝露させ、血中のSEAP活性を測定し、体内でAhRの活性化が起こるか否かを検討した。その結果、タバコ煙を曝露させたDRESSAマウスでは血中のSEAP活性の上昇が生じ、体内においてAhRの活性化が起こることが証明された。 こうした昨年度の研究成果を踏まえ、本年度は喫煙による腸管および免疫系臓器(脾臓)におけるAhRの活性化を検討した。具体的には、タバコ煙に曝露させたDRESSAマウスの大腸および脾臓におけるSEAP mRNA(外因性マーカー)およびCyplal mRNA(内因性のマーカー)の発現を、RT-PCR法により検討した。タバコ煙に曝露させたマウスの血中では、SEAP活性の増加が認められた。また、タバコ煙曝露マウスの肺および肝臓では、SEAP mRNAおよびCyplal mRNAの明らかな発現上昇が認められた。しかし脾臓および腸管では、これらマーカー遺伝子の発現上昇は認められなかった。なお、AhRの活性化に関しタバコ煙よりも遥かに強力な物質である2,3,7,8-TCDDを経口投与した場合には、大腸でのCyplal mRNAの発現上昇が認められた(山梨大学医学部免疫学講座中尾篤人教授との共同研究)。
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