研究概要 |
近年罹患者が急増している潰瘍性大腸炎は、喫煙が予防因子・治療因子として働くことが知られている。しかしその臨床効果を説明しうるメカニズムは未だ不明である。本研究は、われわれが報告した「タバコ煙には芳香族炭化水素受容体(AhR)を高度に活性化する作用がある」という事実(Cancer Res, 2006; Environ Health Perspect, 2008)をベースに、「喫煙はAhRの活性化を介して潰瘍性大腸炎の発症進行を抑止する」という視点からこの難病の本質に迫り、この仮説を検証することにより潰瘍性大腸炎に対する新規治療戦略の確立を目指すものである。われわれが開発したトランスジェニックセンサーマウス(DRESSAマウス; AhRの活性化によりマーカー酵素であるSEAPを発現する)を用いた検討では、比較的低濃度(受動喫煙レベル)のタバコ煙に曝露させたDRESSAマウスでも血中のSEAPの上昇が生じ、体内においてAhRの活性化が生じていることが判明した。RT-PCR法を用いた検討では、タバコ煙に曝露されたマウスの肺および肝臓で、SEAP mRNA(外因性マーカー)およびCyp1a1 mRNA(内因性のマーカー)の発現上昇が認められた。しかし腸管(大腸)では、低濃度でのマーカー遺伝子の明らかな発現上昇は認められなかった。一方、AhRの活性化に関し強力な作用を有する2,3,7,8-TCDDを経口投与した場合、マウスの大腸ではSEAPおよびCyp1a1 mRNAの発現上昇が認められた。そこでより高濃度のタバコ煙への曝露によってAhRの活性化が腸管等で生じるか否かを検討するため、主流煙により長い時間曝露させたDRESSAマウスを用い検討を行った。その結果、大腸でSEAP 及びCyp1a1 mRNAの発現上昇が認められ、能動喫煙により腸管でAhRの活性化が生じることが明らかになった。
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