哺乳動物細胞を用いた体細胞突然変異の検出系はHPRT遺伝子やTK遺伝子などの試験系に限られており、変異原物質によって発がんに関連する遺伝子にどのくらい変異が生じるかを調べることは不可能であった。しかし、近年の次世代DNAシーケンサーの性能向上により、遺伝学的手法ではなく、機器分析手法により、変異原物質による低頻度の体細胞突然変異を検出できる目が出てきた。 中でも、次々世代DNAシーケンサーと呼ばれる、パシフィックバイオサイエンス社のSMRT DNAシーケンサーは、一分子リアルタイムのシーケンスが可能である。これを用いることにより任意の組織の任意の遺伝子における突然変異を検出することが可能になるかもしれない。そこで、この「SMRT法」の開発をめざし、SMRT DNAシーケンサーに関する情報収集するとともに、テンプレート作成法の開発を進めた。テンプレート作成法として、まず、ヒトゲノムDNAを制限酵素pstIで切断し、p53遺伝子のエクソン5-9を含む領域を切り出し、エキソヌクレアーゼによる限定分解後、固相に担持したプローブでキャプチャした後、制限酵素HindIIIでエクソン7-9の領域を切り出す方法を考案した。この後、末端処理してSMRT DNAシーケンサー用の環状アダプターを付け、シーケンスに供することになる。残念ながら、研究期間中にSMRTシーケンサーにアクセスできなかったので、実証試験は今後の課題である。 一方、これとは別に、イルミナ社の次世代シーケンサーを用いて、化学物質が誘発する突然変異をゲノムワイドに検出する手法を考案した。パイロット試験として、変異原処理したサルモネラ菌5クローンと、未処理の5クローンをランダムに選択し、全ゲノムシーケンスを行った結果、変異原処理したクローンで複数の突然変異を検出できた。これにより、表現型によらない、機器分析による突然変異の検出に道を開いたことになる。
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