本研究では、強磁性単電子トランジスタ(FMSET)の作製手法として、電界放射電流誘起型エレクトロマイグレーション法(アクティベーション法)を提案している。本手法は、ナノギャップ電極(初期ギャップ幅:数十nm程度)に対して、電界放射電流により誘起されたエレクトロマイグレーション(EM)を発現させることで、ギャップ近傍の原子を移動させてギャップ間隔を狭窄化すると同時に、ギャップ内に原子を堆積させることによりSET構造でのアイランド電極の形成をも可能とする技術である。 昨年度では、電流源の極性を交互に変化させたアクティベーション技法を開発し、ナノギャップの抵抗制御および微細構造制御の制御性向上に関する検討を行った。最終年度(平成23年度)は、複数のナノギャップを直列に集積接続し、同時にアクティベーションを適用することで、SET構造の一括作製・持性制御・集積化について検討した。設定電流ls=10μAで同時にアクティベーションを行った後のそれぞれのナノギャップのSEM像から、ギャップ内にドット状の原子(アイランド電極)の形成が確認でき、2つのSET構造の一括作製および集積化が達成された。さらに、低温下(16K)にて詳細に電気的特性の検討を行った結果、ほぼ同一の特性を有する2つのSETを同時に作製することができた。また、集積した2つのSETの帯電エネルギーは設定電流lsの増加に伴い2つのデバイスにて一様に減少した。以上より、本手法は、複数のナノギャップ電極のトンネル抵抗を同時に制御することができ、さらに、ナノギャップからなるSETの素子特性を制御・調整しながらSETを集積化することが可能であることが明らかとなった。さらに、本手法において得られたラテラル型Ni/真空障壁/Ni系磁性トンネル接合単体での室温におけるトンネル磁気抵抗効果(TMR)特性を詳細に検討した結果、室温にて、10%程度のTMRの観測に成功した。また、室温でのバイアス電圧依存性からはVhalf=200-300mVが得られ、これは、SET動作時に必要とされるドレイン電圧とほぼ同じ設定電圧条件であることから、強磁性単電子トランジスタにおいても室温においてトンネル磁気抵抗効果の観測が可能であることが示唆された。
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