本研究では、葉緑体型ATP合成酵素γサブユニットのチオールスイッチ部分の配列を、光駆動スイッチタンパク質であるフォトトロピンのLOVドメイン、光合成細菌のBLUFドメイン、シアノバクテリアのGAFドメインにそれぞれ置き換え、光のオンオフあるいは波長の切り替えによって酵素活性および回転が調節出来るかどうかを調べることを目指した。昨年度の研究では、光合成細菌のBLUFドメインを、ATP合成酵素の制御領域のスイッチ部分に遺伝子操作によって導入することを試みたが、γサブユニット単独、複合体いずれにおいても融合タンパク質を得ることができなかった。そこで、本年度は、シアノバクテリアのGAFドメインを用いてγサブユニットとの融合タンパク質の作成条件を検討した。色素団を保持したGAFの発現はATP合成酵素発現系に用いる大腸菌で可能となったため、γの制御スイッチ領域に導入する系の確立を進めている。また、別に行った生化学的な実験により、γを構成する2本のヘリックスの相対的な位置をずらすことで酵素活性を実際に変動させることに成功した。 ATP合成酵素の加水分解活性の測定に一般に用いられるピルビン酸キナーゼと乳酸脱水素酵素を共役させ、NADHの酸化によってモニターするカップリングアッセイ法の感度を向上させることを目的として、連携研究者の竹内昌治准教授(東大・生産技術研)の協力を得て少量の溶液小胞中(オイル中の水玉)に封じ込めた酵素の動態を簡便にモニターできる実験系の開発を昨年に引き続き実施した。カップリングアッセイにシステムを応用する試みとして、研究に用いたレドックス酵素であるグルコース6リン酸脱水素酵素の実験系について、生成物であるNADPHをさらに別の蛍光物質にカップリングアッセイを用いて置き換える実験系の確立に成功し、系全体の感度を1000倍以上向上させることに成功した。現在、この共役系とグルコース6リン酸脱水素酵素を油中の小胞に封じ込め、個々の小胞の蛍光の増大を定量的に観察できる実験系を構築している。
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