研究概要 |
本研究では、海水と陸水の混合に伴う化学反応に着目し、真の海水浸入域を高精度で化学的に検出する新たな手法の確立を目指した。この手法により,堆積作用を伴わない津波の地層内検出も可能となり、従って未知の古津波の発見が期待できる。研究の初年度には下北半島大沼で掘削を試み,得られた試料について,間隙水と粒子間沈殿物を分析し,海水流入の層準を特定した.粒子間沈殿物は海水-湖沼水急激混合による化学反応の機能によるものと特定した.間隙水と異なり,粒子間沈殿物は堆積後の改変に耐性であり,化学反応の結果が痕跡として残る.特に炭酸塩類の酢酸可溶成分は,津波痕跡を検出する化学目標としての利用価値を見出した。陸水と会合しない場合には、溯上海水は蒸発や浸透の過程で堆積物と相互作用し、特有の物質が残されると予測される。この化学的なメカニズムを明らかにするまでには至らなかったが、3.11津波の溯上流が残した海水成分を堆積物中に検出し,その可能性を認識することができた.津波の溯上現象を化学量論的に解明する試みはこれまで皆無であり、この試みの先に、浸水域を正確に評価する常套的技術の確立が達成されると期待している。 現在進めつつある仙台平野での869年貞観津波の溯上復元に向けて、ここで確立した方法論を適用し、真の海水溯上範囲を特定した。土壌の酸性化により炭酸塩物質が消失している場合には、海水溯上域の特定にGeやU等を分析対象とするが,これは今後の課題として残された。成果発表旅費を使用して平成23年度12月開催のAGU(サンフランシスコ)に参加し、最終結果を報告した。
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