本研究は、エピジェネティック制御因子としてのセレン(Se)の役割を解明することを目的としている。マウスEmbryonic Stem (ES)細胞にSeを暴露することにより、ES細胞核内ヘテロクロマチン構造に変化を来すことは、研究代表者らによってすでに明らかにされていた。よって、本研究では核内移行シグナルを有する唯一のセレン含有タンパク質、セレノプロテインH(SelH)に着目し、SelHを介したエピジェネティック制御が存在する可能性の検証を目指している。まずは、mSelHの分子動態の解析に役立つツールとして、抗mSelH特異抗体の作製を試みた。抗原として供するmSelH組換えタンパク質の発現とその精製に成功し、ウサギ抗血清の作製の委託を行った。現在、得られた抗血清のアフィニティー精製に着手している。さらに、mSelHの発現変化が、セレン暴露によって観察されたのと同様なヘテロクロマチン構造変化を引き起こすか否かを検証するために、mSelH強制発現/ノックダウンES細胞株の確立を試みた。定量的PCR法により、得られた細胞株ではmRNAレベルでのmSelHの発現変化が認められる。今後、タンパク質レベルでのmSelH発現変化の確認には、今年度作製したmSelH特異抗体を用いる予定である。次年度は、獲得したmSelH強制発現/ノックダウンES細胞株について、まずはヘテロクロマチン構造に注目してCharacterizationを進める予定である。本研究により、ヘテロクロマチン構造変化にどのようにセレン含有タンパク質mSelHが関与するかが解明できれば、新規のエピジェネティック制御因子として、Seの重要性を提唱できることになる。
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