研究概要 |
本研究の目的は、エピジェネティック制御因子としてのセレン(Se)の役割を解明することである。マウスEmbryonic Stem(ES)細胞にSeを暴露することにより、ES細胞核内ヘテロクロマチン構造に変化を来すことは、研究代表者らによってすでに明らかにされていたため、本研究では核内移行シグナルを有する唯一のセレン含有タンパク質、セレノプロテインH(SelH)に焦点をあて、SelHを介したエピジェネティック制御が存在するか否かを検証した。昨年度すでに、その確立に成功していたSelH強制発現ES細胞株を用いて、DAPI染色による核内ヘテロクロマチン構造の観察を行った結果、Se暴露によって観察されたのと同様に、ヘテロクロマチンシグナルが増加し、一方、SelHノックダウンES細胞株では、ヘテロクロマチンシグナルは減少した。このように、SelHはヘテロクロマチン構造変化に関与することが示唆され、本年度は、SelHのエピジェネティック因子としての機能解析を進めた。まず、SelHノックダウンES細胞株において、多分化能関連遺伝子であるNanog, Dppa3, Nodalに着目したところ、それら遺伝子発現の低下および転写開始点近傍のDNAメチル化の亢進が認められ、さらに、EGFP融合SelH強制発現ES細胞を用いて、EGFP抗体でChIPを行った結果、EGFP融合SelHはNanog領域に結合していることも明らかになった。このように、SelHはゲノム上の特異的な遺伝子領域に結合し、ES細胞の多分化能関連遺伝子のエピジェネティック状態を制御することが示され、これまで、抗酸化作用にのみ注目されてきたセレノプロテインの機能として、エピジェネティック制御という新しい側面があることが明らかになった。本研究によって、環境あるいは栄養因子としてのみならず、エピジェネティックという視点からも、Seの重要性を提唱するに至った。
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