DNA中シトシン塩基5位のメチル化は、細胞の発生や分化、感染に対する防御などに関わる極めて重要な核酸塩基修飾である。特定のシトシン塩基のメチル化を化学的に誘起する技術を開発することが出来れば、化学的にエピジェネティックな遺伝子発現制御機構を制御できる可能性がある。 本研究の初年度であるH22年度では、提唱されているDNAメチル化酵素のメチル化機構を、二重鎖DNAを強固に認識する三重鎖形成核酸(TFO)を用いる事で化学的に模したDNA中シトシン塩基5位をメチル化する手法の開発を検討した。まず、DNAメチル化酵素の活性中心を模倣するTFOとして、標的シトシン塩基の前後配列を認識するTFOの3'または5'末端にそれぞれアミノ基、ヒドロキシル基、スルフィド基、およびメチルスルホニウム基を持つTFOの合成法を開発した。これにより、DNAアルキル化能を有するメチルスルホニウム基とDNA(TFO)を複合体化できる事が明らかとなった。また、狙った空間へこれら官能基を配置することを可能とする、チオール基を持つ新たな人工核酸の開発に成功した。さらに、合成したTFOを標的DNAに作用させたところ、メチルスルホニウム化TFOの減少に伴って、標的DNAとは異なるいくつかのDNAの生成を確認する事が出来た。分解性のDNAが多く、グアニン塩基へのアルキル化が主であると考えられ、官能基の組み合わせやそれぞれの空間配置といったコンジュゲート設計に関わる課題の他、アルキル化位置を簡便に特定する評価系の構築など、検討すべき課題が明確となったため、現在検討を重ねている。 これら一連の成果は、TFOコンジュゲートが標的DNAをアルキル化できる事を明確に示した例であり、シトシン5位のメチル化法としての習熟に向けた大きな一歩である。
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