本研究は、インフォマティクスと実験との融合により、蛋白質設計技術おける新しいパラダイムを切り拓き、抗体やペプチドミミックの開発の自由度を上げることを目的としている。当該年度においては、対象として2種類の蛋白質を選び、アミノ酸配列と活性との相関等に関する情報のデータ収集を実施した。一つは、アルツハイマー病の原因蛋白質であるアミロイドβである。アミロイドβは、凝集を起こしやすく、脳内に線維として蓄積する。最近、分子量が37/48kDaのオリゴマーと呼ばれる凝集体が、線維よりも強い神経毒性を有することが知られるようになった。したがって、このアミロイドβの37/48kDaオリゴマー化を阻害するペプチドは、アルツハイマー病の治療薬の候補物質として有望である。そこで、ファージディスプレイ法を用いてランダムなペプチドライブラリーをアミロイドβに対してパンニングし、37/48kDaオリゴマーの形成を阻害するペプチドの配列を探索した。その結果、新規な7残基の配列を複数見出すことに成功した。これらのペプチドには、塩基性または疎水性のアミノ酸残基が共通して含まれており、これらのアミノ酸残基が、アミロイドβとの相互作用に重要であることが示唆された。これらの情報は、将来、アルツハイマー病治療薬のリード化合物の設計のために有用であると考えられる。 一方、もう一つの有力な対象である抗体に関しては、触媒抗体をモデルとして用い、基質のプロドラッグに結合する配列をパンニングにより探索した。その結果、抗原認識部位のH3及びL3領域に関して、プロドラッグに親和性を有する新規アミノ酸配列が見出された。今後さらにL1領域についてもパンニングを行うことにより、プロドラッグに結合する配列を取得し、そのライブラリーの中から、触媒活性すなわちプロドラッグを分解し抗生物質を生成させ得るアミノ酸配列を獲得する予定である。
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