研究課題
本研究では、特定のタンパク質に選択的に結合する糖鎖リガンドやイディオタイプを、ダイナミック・コンビナトリアルケミストリーと高速結合形成反応を併用して創製し、さらにこれら分子を用いて機能性生体分子の相互作用を制御することを目的としている。既に平成22年度において、特定のリン酸化チロシン含有タンパク質に選択的に結合するGrb2/SH2ドメインのイディオタイプの創製を検討し、標的のEGFRを高発現したA431癌細胞内、さらには動物内でも選択的にA431細胞内のシグナル伝達を阻害するペプチド分子を得た。そこで平成23年度では、先に得られたペプチド分子の構造を固定化して、相互作用の更なる増強を図った。すなわち、ペプチド内に二重結合を導入し、固相上で分子内メタセシス反応を実施することによって、効率良くペプチド部分構造を環状化することに成功した。この環状化により、リン酸基と相互作用する2つのリジンアミノ基が接近することが予測されたが、実際に標的のリン酸化チロシン含有タンパク質の部分構造に対して、環化前のペプチドよりも10倍強く相互作用することが判明した。さらに、環化前駆体に比較して格段に強いA431癌細胞増殖阻害活性を実現した。次いで、このようにして得たSH2ドメインイディオタイプに対して、近赤外線領域に吸収を持つ蛍光色素、または短寿命陽電子放射核種である^68Gaを配位させたDOTAで標識し、BALB/cヌードマウスに担持したA431癌へのターゲティングを検討した。その結果、微かではあるがPETイメージングによりA431癌組織への選択性を確認することができた。一方、様々なリン酸化タンパク質により一般的で迅速な方法とするため、マイクロアレイ上での網羅的な結合形成反応による相互作用分子の検出/創製法を検討した。しかし、反応性の低下に加えて様々なペプチド分子の基盤上への非特異的吸着により、本有機合成反応を用いたアレイ上への展開は困難であることが判明した。
2: おおむね順調に進展している
特定のリン酸化チロシン含有タンパク質に選択的に結合するGrb2/SH2ドメインイディオタイプの創製に対して、ダイナミック・コンビナトリアルケミストリーと報告者の自己活性化型クリック反応を併用して検討し、標的の癌細胞内、さらには動物内でも選択的にシグナル伝達を阻害することに成功している。さらに、環状化による構造展開と活性向上を実現するとともに、分子プローブとして開発した。このように、平成22年度、および23年度の成果により、生体内現象を模倣して目的とする機能性分子を自由自在に創製し、さらに生体分子の相互作用制御を実現しており、当初の研究目的が順調に達成できていると自己評価する。
今後、様々なリン酸化タンパク質を代表として、標的生体分子により一般的で迅速な方法とするため、ペプチドに限らず様々な分子間での結合形成反応(コンジュゲーション)を実施するとともに、マイクロアレイも活用した網羅的な高速結合形成反応の実施による相互作用分子の検出/創製法を検討する。しかし、平成22-23年に活用した「自己活性化型クリック反応」を用いた方法では、用いることのできる基質の制限に加えて、マイクロアレイ上での反応性の低下、さらにはペプチド分子の基盤上への非特異的吸着により、本有機合成反応を用いた一般的展開は困難であることが判明した。そこで今後報告者は、これまでの研究過程で見出した共役二重結合とアジドとの効率的な[3+2]環化反応、あるいは共役イミン誘導体の新奇な[4+4]反応を新規クリック反応として活用し、様々なタンパク質や糖鎖リガンドに一般的な方法論にまで発展させる。
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