初年度にあたり、北米の華僑史料に関して、まず日本で実施可能な基礎的収蔵調査をおこなった。夏期には、バンクーバーで一か月の集中的な調査を実施した。ブリティッシュ・コロンビア大学の複数の付属図書館が所蔵する華僑関係史料コレクションを確認し、その種類と分量、さらに編集にかかわる過去の社会的事情や人々の活動などを史料閲覧や学芸員へのインタヴューによって明らかにし、1970年代初頭における多文化主義政策の一環として、同大学が展開した僑団史料の調査収集活動ならびに僑領の口述記録計画が現在のコレクションの基礎を形成し、その後のカナダ華僑研究の進展を促したと結論付けた。さらにニューウェストミンスター資料館やデルタ資料館など、郊外の公立施設が所蔵する華僑史料を調べ、収蔵史料を閲覧調査するとともに関係者へのインタヴューをおこない、カナダ人ヘリテージプランナーや学芸員の努力によって二埠中華会館史料をはじめとする華僑史料が廃棄を免れ、保存・公開された背景を明らかにした。またバンクーバーのチャイナタウンに入り、華僑自身の運営する複数の資料館・博物館・図書館を訪問した。ここでは、現在運動化している新たな史料の保存・公開活動について正確に理解するため、特に複数の中国系カナダ人リーダーに接触し、その文化振興運動の実践に関して参与観察やインタヴューをおこなった。そして、現在のカナダにおける中国移民の歴史に関する保存収集活動が、中国系の研究者や活動家の主導によって中国系住民自らが組織的におこなっており、特にウェブを新たな公開媒体として多用すること、さらに多文化主義の実践と直結した啓発運動の役割も果たしていること等を重視した。本調査では、現地の研究者や活動家との間に、人脈を開拓し信頼関係、協力関係を築けたことも大きな成果であった。帰国後、複数の研究会で報告し、研究者からの質疑を通して来年度の調査の方向を定めた。
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