最終年度の今年は研究を積極的にアウトプットし、さらなる調査の中で視座を深化することをめざして、英語圏の学会での英語口頭発表と、アメリカ東海岸とカリブ海地域の華僑関連史料に関する調査をおこなった。日本での基礎的調査を踏まえて、夏期にニューヨーク、ニューヘイヴン、ボストンで華僑関連資料の現地調査を実施した。東海岸は西に比べ華僑研究が盛んではないが、ハーバード大学とイェール大学の付属図書館は、中国布教や中国貿易に関する史料を有し、これに散見される華僑関係資料を調査した。ニューヨークではアメリカ華僑華人博物館にて、現在の中国系住民たちがどのように中国移民史を自らのエンパワーメントに用いているか調査した。カリブ海地域の中国移民は19世紀半ばの契約移民に関する英国の英語史料が知られているが、華僑社会内部で蓄積された中国語史料についてはほぼ未調査である。そこで、3月にトリニダード・トバゴ共和国で2週間の現地調査をおこない、ポートオブスペインのトリニダード国立史料館に所蔵されている中国語新聞コレクションを精読し、その内容や分量、年代から、カリブ地域の中国移民や中国系住民の移動性の特徴を明らかにし、これによって北米華僑と異なる諸特徴を論じることを可能にした。またトリニダード中華会館の元総理に華僑団体内部における史料の残存と、2006年に国家行事として遂行された中国移民200周年記念諸行事の詳細についてインタヴューした。これらの成果は、口頭発表や活字化によって発信した。学会誌に北米華僑の資料保存とコミュニティ研究の進展を論じた書評論文を発表し、7月にオーストラリアアジア研究学会の年次大会で発表し、12月に京都大学人文学研究所の共同研究にて、華僑研究の個人発表に対して残存史料の操作を主としてコメントした。さらに2月の市民講座でも本研究の調査結果を踏まえた内容で講義し、一般市民に研究を還元した。
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