平成22年度は、10月から12月の3カ月間ベルリン・フンボルト大学日本センターに滞在しながら、ベルリン国立図書館、フンボルト大学図書館を中心に、(1)18世紀後半の国際法と植民地を巡る諸論争に関する文献、(2)1780年代~1790年代ドイツにおける平和と市民社会を巡る諸論争に関する文献の収集を行った。その際、一次資料に関して所在場所を確認するとともに、デジタル化されているもの(全文献ないし部分)とされていないものの区別に留意しつつ、入手手続きを進め、初年度の文献収集の課題を基本的に果たした。主としてベルリン滞在中にドイツ啓蒙の専門家であるユルゲン・シュリーバー教授(フンボルト大学教育学研究所)と複数回会見し、研究代表者の研究課題に関係する諸テーマについて意見交換を行なった。同時に近年のEU圏における研究動向についての貴重な情報を入手した。西洋諸国による非西洋諸地域の植民地化に果たした国際法の役割とそれをいち早く批判したカント最晩年の政治哲学を日本において研究する際には、東アジアの近代化において帝国の道を進んだ日本と、多かれ少なかれ被植民地化の歴史を経験した中国、韓国・朝鮮、台湾との関係、東アジア諸地域における経験の相違に関係する西洋国際法に対する異なる受容のありかたを視野に入れる必要がある。研究代表者は、平成22年8月、精華大学(北京)における国際会議、並びに、平成23年3月、国立台湾大学(台北)における国際会議に招聘された際に、中国および台湾の複数の研究者と会見し、前述の問題について意見交換を行い、東アジアを視野に入れた研究の進め方について貴重な示唆を得た。カント最晩年の政治哲学を東アジアで研究することの意味を十分深めることができた。 また、これらの成果は、次の研究、平成23年5月の江原大学校(春川市、韓国)で開催される国際シンポジウム「東アジアにおける西洋哲学受容の問題」に役立つものである。
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