平成24年度の研究成果は次の通りである。 1.研究成果のとりまとめに直結する作業 (1)西洋近代の国際法において非西洋世界の植民地化の法的根拠とされてきた「無主の地」理論の形成およびその歴史的変遷を18世紀の国際法学者ヴァッテルの学説に焦点を当てつつ、以下の点を解明した。先占概念を西洋国際法に導入したグロティウスにおいては先占の主体は先住民とされ、西洋諸国民による植民地獲得は正当戦争の結果合法化される征服を根拠として初めて正当化された。先住民の土地所有権を否定し、非西洋世界を「無主の地」とみなす法理論は、ロックによって与えられた。ロックによれば「土地(不動産)に対する所有権は合理的農業経営者(事実上は西洋人入植者)にのみ認められ、非西洋諸大陸は「無主の地」と見なされた。ヴァッテルは、『万民法または自然法の諸原理』においてロックの「無主の地」理論を国際法に初めて導入し、それ以降の西洋諸国民による非西洋世界に対する植民地獲得を正当化する国際法理を確立した。 (2)本研究は『永遠平和のために』『人倫の形而上学』などのカント最晩年の政治哲学文献を読解することによって、カントの世界市民社会概念がヴァッテル以降の「無主の地」理論を配備した西洋国際法を直接の批判対象として成立したことを解明した。 (3)カントの政治哲学は従来、その共和主義的立場からアメリカ合衆国建国の理念を支持するものであるという解釈が多くなされてきた。本研究の独創的な研究成果は、『人間学』『自然地理学』を含めカント最晩年の著作がアメリカ先住民の先住権を擁護する立場から北アメリカ植民およびアメリカ合衆国建国に対する批判に貫かれていることを解明したことである。 2.東北大学、京都大学を訪問し、18世紀後半~19世紀初頭におけるカント政治哲学および西洋国際法に関する資料収集を行った。
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