本研究は、明治大正期日本において、西洋美術に関する同時代的情報が、どのようにもたらされたのかを初めて明らかにしようとするものである。第一に、媒介する雑誌の種類と性質、第二に美術情報を収集し執筆する人物、第三に、その情報がもたらした同時代美術への影響や衝撃について、詳細に明らかにすることを目的としている。 昨年度は『東京美術学校校友会月報』『美術新報』『美術週報』などの美術雑誌における美術彙報記事の全てを抜き出し、その後の研究が円滑に行えるように、分類整理、見出しの付加、索引整理などをまずは行った。 今年度は上記の雑誌以外にもとりわけ『第二次早稲田文学』に膨大な彙報が含まれている事実を発見し、その情報整理を行った。さらにこれらに影響を与えている海外美術雑誌Studioの重要性がさらに深まったため、Studio誌における美術情報発信の在り方についての理論的考察を進めた。美術情報を発信する人物としては、東京美術学校で西洋美術史を担当した森鴎外鴎外、岩村透、久米桂一郎の存在がやはり大変大きく、彼らの著作や美術批評記事との関連性を調査中である。 いずれにせよ当初の予想通り、この時代の美術情報の移入の在り方は、単なる情報移入の次元にとどまらず、明治大正美術批評が膨大な知識背景をもとになされていたことが実証的に証明されただけでなく、そうした情報が美術界をいかに牽引していたかも明確になってきている。よって、本研究は「萌芽」の段階からいよいよ、本格的な著作執筆完成の段階に移行している。 今橋映子『日本近代美術批評の成立と展開』(仮題)は、400字詰原稿用紙換算約2000枚に達する規模であり、すでに出版社の企画出版として社内承認され、2013年度中の刊行を目指している。
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