前年度に引き続き、人前でのスピーチと複雑な計算課題(TSST法)を与えてストレスを高めた被験者に音楽を聴取させると、音楽聴取のない場合に比べて、ストレスが速やかに解消されるかどうかを実験的に調べた。音楽の種類には高揚的音楽と鎮静的音楽の2種類を設けた。また、ストレスの生理的指標として、ストレスホルモンであるコルチゾールとクロモグラニンAの唾液中濃度をELISA法により測定した。さらに、特に心理的ストレス指標と生理的ストレス指標の関連性に着目して、その対応関係等についても検討することとした。 実験手続きは次のとおりであった。15名の大学生を対象に、TSST法によりストレスを負荷した後、音楽を聴取させる音楽条件と音楽なしで安静にさせる統制条件に参加させた。両条件の心理的および生理的ストレス度を、ストレス負荷直前、直後、その5分後、10分後、25分後の計5回にわたり測定した。 実験の結果、音楽聴取は聴取のない場合よりも心理的ストレスを速やかに低減させる効果があり、その効果は鎮静的音楽よりも高揚的音楽において、より顕著であることが確認できた。一方、生理的ストレスについては、音楽聴取条件と統制条件の間に統計的に有意な差は認められなかった。ただし、音楽条件においては、ストレス負荷後、音楽聴取を開始して後、ストレス度が安定して減少していくという変化のパターンが、心理的ストレスと生理的ストレスの2指標間で類似している点で、良い対応関係が認められた。これに対し、統制条件ではそのような対応はみられなかった。なお、音楽条件においては、音楽聴取開始後に心理的ストレス度が急速に減少したのに対して、生理的ストレス度の減少は、比較的緩慢であることが認められた。
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