研究概要 |
正倉院北倉の竹製尺八の物理モデルに基づき、様々な運指におけるピッチ周波数を計算した。さらに、虚無僧尺八との関連から、正倉院尺八で第2孔を捨てたモデルを考え、都節第一旋法(上行)が演奏しやすい孔位を推定した(ただし、正倉院尺八の第3,4孔の位置は不変とした)。第3孔は、林謙三が「二均説」を唱えたように、その孔位は音響学的に不自然であった(音響学会、平成23年秋季研究発表会)。また、正倉院尺人の第7運指(第3,6孔開く)では1オクターブ上の音が演奏困難であり、必ずしも適切な運指ではないように推測された。この第7運指に相当する音は虚無僧尺八では第3,4孔を開けた運指による「ハ」音であり、1オクターブ上の音も容易に演奏できる。 古管虚無僧尺八に関しては研究協力者である志村哲大阪芸術大学教授の支援を得て、浜松楽器博物館などから名器を拝借し、九州国立博物館において内部構造のCTスキャンを行なった。その結果、内部形状は予想以上に複雑な変化を示しており、特に、節の残し方によって音律を調整している実態が明らかになった。また、九州大学芸術工学部の無饗室において、これらの名器を志村教授に吹奏していただき、演奏音を収録した。演奏音の解析は現在進行中である。これら古管尺八に関する研究成果および上記の正倉院尺八に関する数値計算結果は平成24年5.月の国際会議(Acoustics 2012 Hong Kong)において発表する予定である。これらの研究を通して、古管尺八の研究用モデル(2尺管)を策定し、研究協力者である山口秋月氏に製作を依頼し また、中華人民共和国・蘇州の崑劇団などの管楽器製作を請け負う張力氏に、蘇州の中国崑曲博物館周暁館長及び元崑劇団笛師顧再欣氏を通じて、正倉院タイプの尺八を製作し、機械吹鳴実験を行なった。分析結果は学術誌に投稿すべく準備中である。
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