本研究は、写実的絵画の今後の在り方を模索する実験的試みである。2004年から2008年まで広島市立大学油絵専攻教員が大学院学生及び卒業生の協力を得て、広島被爆者1世・2世・3世の肖像画を100点制作し、被爆問題をキーワードとして、絵画が社会とどう関わり貢献出来るかを提案した「光の肖像」展が土台となっている。絵画が趣味的な愛玩物ではなく、読み取るべき内容を含んだ表現力を持つことを、被爆経験の継承を静かに訴えることで認識する内容であった。 ロンドンで、ロンドン大学アジア・アフリカ研究学院附属ブルネイギャラリーを選び、共同主催者のキングストン大学と準備を開始した。 被爆から65周年の節目に鑑み100点から65点に作品を絞り、一部加筆訂正を行う。作品展示及びカタログにはそれぞれに簡潔な文章でモデルの履歴が付されるが、これはモデルからの聞き取りを整理したもののために、固有名詞や表現の不統一が多く、翻訳作業に時間を費やした。 展示は2010年8月5日から65日間の会期で、約1万人の入場者を数え、別に講演会も行なった結果、大きな反響を得ることが出来た。 現代アートの先進と肖像画の伝統のあるイギリスで、被爆をほとんど知らない市民に対して、個人の発表ではなく塊としての肖像画を見せたことの意義は非常に大きく、絵画の可能性を確認するものとなっている。
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