音(聴覚表象)は、映画・映像アートの重要な構成要素であるが、視覚表象と異なり資料化しにくいために、そのリテラシー理論の構築が著しく遅れている。とりわけ我が国では、音響の属性のみを自律的に扱う音響技術の発展に頼るあまり、音響設計の美学的視野および表現技術の停滞がみられ、このままでは、我が国の次世代の基幹産業をなすべき映画・映像アートの可能性が閉ざされる危険がある。本研究では、この状況を打開するために、音の様態的・意味的観点に着目した映像リテラシー理論を構築する。 この目的を遂行するため、本研究は平成22年度、オーモン、シオン、フリュッキガー、ブッラーヤーン、加藤幹郎等の著書で取り上げられている映画・映像作品を、可能な限りDVDなどのソフトウェアとして入手し、音響の要素・機能・関係に配慮しつつ、音響設計や時間設計の観点から美的特質を分析し、学術論文により成果発表を行った。各論文の背景となるテーマは「映画・映像アートにおける音響設計のモデル」「映画・映像アートにおける時間設計のモデル」である。 また、平成23年度冬に開催予定の映像学カンファレンスで、集中的な討議を行うための素材作品制作のために、アジアからの発信性を重視しつつ、アジア諸地域(韓国・台湾)にて視覚面・聴覚面の素材を取材した。
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