映画・映像アートは、これまでもっぱら視覚表象のテクスチャ(実写/造形、具象/抽象)によってジャンル分けされ、その構造が語られてきた。本研究では、その代わりに、シオンの視聴覚関係モデル(1985)を参考に、視覚表象と聴覚表象の関係態様を重点的に分析し、音の様態的・意味的観点に着目した映像リテラシー理論、ならびに、映像表現における音響設計のモデルを構築するための基礎的研究を行ってきた。 このようにして準備したモデルの当否を、前年度に実施した国際カンファレンスにおいて検討した。これをふまえ、2012年度の分析対象は、34本の短編映画と1本のミュージックビデオと3本の長編物語映画に設定した。具体的には、36名の映画監督が「映画館」をテーマに創作した各3分間、34本の短編映画集『Chacun son cinéma』(2007)、飢餓救済チャリティ用に制作された『We Are the World』(1985)のミュージックビデオ、ならびに、小津安二郎監督『一人息子』(1936)、同監督『淑女は何を忘れたか』(1937)、パウエル&プレスバーガー監督『赤い靴』(1948)である。 また、上記の音響設計モデルから導きうる過密の要請にしたがって、映像作品《reassembly》(上映:2013年11月30日・於大阪芸術大学)を提案し公開した。 本研究の最終目標は、次世代の映像リテラシーを高めるための映像鑑賞教育教材を創りあげることにあるが、当研究期間では、教材の上梓には至らなかった。
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