研究概要 |
本研究の目的は、イギリス小説を原作とした映画を論じるための、多様かつ体系的な枠組みを組み立てることになる。1年目の今年度は、各メンバーがさまざまな機会をとらえて研究発表を行ったり、他の研究会やシンポジウムに参加することによって、小説を原作とした映画についての多様なアプローチを試行錯誤的に探究した。今年度試みた多様なアプローチを体系化することが今後の課題になるだろう。 まず、5月には、日本英文学会関東支部例会シンポジウム「英文学者は映画を語れるか--英文学研究と映画というメディア」に参加し、新井、草光、佐藤が口頭発表を行った。新井は、文学作品の映画化が原作にどれだけ「忠実」であるかというfidelityへのこだわりが、映画研究においてなぜ批判の対象となっているかを、オースティンの『高慢と偏見』と『エマ』の映画化をとおして考察した。佐藤は、アラン・シリトーの短編小説とトニー・リチャードソンの長編映画を比較し、文学と映画の表象形式の差異についてのケーススタディを提供した。草光は、歴史家が映画、とくに歴史を扱ったもの、を自分の研究にどのように採り入れているか、フランス史のナタリ・ゼ-モン・デーヴィスを中心に、歴史研究と映画制作との相互作用から生まれる可能性について論じた。 7月には、映画における歴史を主題にした研究会を開催した(Winstanley, French Lieutenant's Woman)。その後は、他の映画研究グループとも積極的に交流した--11月の研究会では、ジャンル系譜論をあつかい(丹治「ドラキュラ映画の系譜」)、12月の研究会ではジャンル論として、「ポストヘリテージ映画」(Chariots of Fire, The Titanic, Holiday)をとりあげ、12月の関西支部のシンポジウム「英米文学と映像」に参加し、最後に3月の研究会において「ヘリテージ映画」(Howards End)を、ふたたびジャンル論的にとりあげた。
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