研究課題/領域番号 |
22652029
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研究機関 | 一橋大学 |
研究代表者 |
坂内 徳明 一橋大学, 大学院・言語社会研究科, 教授 (00126369)
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キーワード | ロシア貴族文化 / ウサーヂバ / 荘園文学 / ロシア文化の基層 / 文化遺産 / 「ロシア・ウサーヂバ研究協会」 / 都市近郊の拠点 / 文化発信の巣 |
研究概要 |
平成23年度は、平成22年度に実施した二度のロシア調査によって得た資料ならびに情報を整理・検討し、本研究の最終年度となる平成24年度の報告書刊行によって一応の目途を得るための研究総括に向けた多くの作業に邁進した。具体的には、ロシア調査の第一回目に行われたペテルブルグ郊外のウサーヂバであるプリユーチノに関するロシア本国の研究状況を確認した。それによれば、プリユーチノの文学世界については、アガマリャン編の大部の資料集=アンソロジーがほぼ完壁な仕事であること、また、ウサーヂバの所有者オレーニンの伝記については、これもほぼ完全といえるファイビソーヴィチの近年の成果であることを確認した。これらの周到かつ画期的な基本文献をベースに、ウサーヂバの一事例としてのプリユーチノの意味をさらに明らかにする予定である。このプリユーチノのケーススタディを通して、18世紀末から19世紀前半のウサーヂバ「黄金期」における、規模からすれば中小レベルの貴族領地の文学的・社会史的意味を考察することにより、ロシア文化史におけるウサーヂバの意義を明らかにできると考えている。また、第二回目のモスクワ「ロシア・ウサーヂバ研究協会」訪問により多くの情報を得たことは平成22年度の大きな成果であった。平成23年度は、この時に入手した多数資料の精査に多くの時間を当てたが、これは、ウサーヂバ研究史と関わる多くの課題-文化遺産にたいする20世紀的アプローチ、アヴァンギャルド運動、農村のフォークロア調査・研究との関連性等々-を提供した。そのため、特に、この「研究協会」の前身である同名の研究協会(1920年に創設され、1930年に休止した)の歴史につき、調査を行った。その成果は、平成24年度中に一橋大学紀要に発表の予定である。さらに、平成23年度には、ドイツ、ポーランド訪問によりロシア帝国周辺のウサーヂバ文化の広がりについて調査を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成22年度に行った二度のロシア調査の成果を精査することにより、一つは事例研究、もう一つは研究史という二つの面からウサーヂバという文化現象へアプローチをするという、本研究の目的が着実に進められていると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
平成24年度が本研究の最終年度にあたることから、これまで2年間にわたる研究成果をまとめて報告書として刊行する予定にもとづき、その具体的内容について準備を行っていく。現時点で、報告書の目次はほぼ決まっており、以下のとおりである-ウサーヂバ概論ならびに研究の基本文献への解題、ウサーヂバ研究協会の現状、協会代表であるヴェデーニン論文の翻訳、さらに一事例としてペテルブルグ郊外プリユーチノに関する論考二篇(これには、研究協力者に参加してもらう予定)-。今後、この内容に従って完成作業を進めていく計画である。 また、この報告書とは別に、1920年代に盛んに活動しながらも1930年に解散した「ロシア・ウサーヂバ研究協会」の歴史、活動の展開、閉鎖をめぐる社会的・文化的状況についてまとめた論考を一橋大学内の紀要に発表する予定である。
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