平成24年度が本科学研究費による事業の最終年度であったことから、作業の大きな中心は成果報告書を刊行することであった。そのため、平成24年6月に、ロシアのペテルブルグにあるロシア国立図書館を訪問し、今回の事業で多くの研究協力をしてもらったN.ニコラエフ氏と詳細な打ち合わせを行った他、多数の資料ならびに情報を得た。その後、同氏から送られた論文(同館長との共著)も含めた成果報告書「ロシア貴族屋敷文化研究」(全体で95ページ)を上梓することができた。ここには、ウサーヂバという文化現象に関する基本的問題設定をまとめた代表者による序論、平成23年度にモスクワのロシア・ウサーヂバ研究協会を訪問し、多くの研究者と面会・情報交換することで得た多数の資料ならびに知見を反映させた研究代表者による論文「1920年代のソ連におけるロシア貴族屋敷の研究」の他、研究協力者である坂内知子による個別ウサーヂバに関するケーススタデイ論文、そして上記ロシアからの寄稿論文が収録されており、全体として大きな成果となっているものと考えられる。ここで扱われた論点は、貴族屋敷文化というきわめて複合的で多面的な現象のごく一部でしかないとはいえ、日本におけるロシア文化・歴史研究にとっては初めての問題提起であると言える。また、今回の報告書には収録できなかったが、研究代表者によるウサーヂバ研究に関する文献解題的論考もほぼ完成されており、これは近日中に紀要等に掲載する予定がある。いずれにしても、今回の事業が、貴族屋敷(ウサーヂバ)という、芸術・文化史のみならず、社会史・思想史・経済史をも含む近世・近代ロシア文化全体に大きな意味を有するきわめて特異な対象にたいする文字通り最初の研究着手となったと断言できるものである。
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