本研究の目的は、国内外の図書館および美術館・博物館に収蔵される中国の碑帖拓本について、書誌データの標準化・目録化を図り、拓本資料を広く活用するための基盤を整備することにある。研究代表者・菅野智明は、拓本の目録化に際し、最も重要となる書誌データの一つ、タイトルに着目し、先導的な事例を勘案しつつ、その標準化案を提起した。また、主として書芸術の方面で用いられる「碑帖(碑・帖)」の語義を、資料学・メディア論的な視点から再検討を試みた。研究分担者・増田知之は、法帖に関する書誌データの標準化作業を妨げている「偽刻法帖」の問題について、前年度に引き続き更なる検討を進め、以下の成果を得た。(1)日本の諸機関が所蔵する『偽絳帖』全12巻について、その存在を明確に示す最も早い記述は孔尚任『享金簿』所収の康熙37年(1698)の姜宸英による跋文である。(2)本年度公開の論考内で指摘した諸事実と照合すると、『偽絳帖』の成立時期は順治17年(1660)から康熙37年の間とほぼ確定し得る。(3)明清時代に濫造された「偽刻法帖」について、銭泳『履園叢話』等の文献史料と『偽絳帖』や『(偽)星鳳楼帖』、『(偽)戯魚堂帖』等の現物資料との比較分析を通して、その刊行実態の解明と歴史的意義の検討を行った。
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