研究概要 |
手話者の複数の種類の視線を言語性を基準に分類して、音声言語話者にも言語的視線に極めて近いものが存在していることを示し、視線の言語記号化までの段階的メカニズムを解明し、視線の言語化は人間の言語能力のひとつであることを証明するのが研究の目的である。 日本手話を母語とする手話者(ネイティブサイナー)の演劇・手話語りの映像を利用して、手話表出の中の視線を取り出した。インド舞踊の視線の研究をするために南インドケーララ州クーリヤッタムのレクチャー・デモンストレーション(Gopal Venu & Kapila Venu)に参加した。クーリヤッタムは演劇とも舞踊とも言えるもので、視線が54種類あり、視線は明らかに記号化されている。表すものは感情であるため、感情の普遍的視線との比較をすることが可能になった。しかしこれが言語性をもつと言えるかどうかの検証が必要である。それには音韻論的アプローチが有効であるかもしれない。 手話の音韻論としてはMPモデルについて検証した。MPモデルは音声言語の音韻論の音節構造を使用している点で音声言語との比較に長けているため、手話音韻論に使われているがアメリカ手話による研究に偏っており、日本手話及び日本手話の視線を分析するのにふさわしいか、インド舞踊やインド演劇の視線の規則を分析できるかどうかはさらなる検討を要することが明らかになった。 視覚記号からの社会的認知とSTSの関係も調べたが、言語と視覚の関係については先行研究がない。しかし早期失聴・早期手話習得と手話にともなう視線の関係は明らかになっている(Bavellier,D. et,al)。これと音声言語の習得の一致は、視線の言語性の証明のひとつと言えると思われる。
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