異体系アクセントの接触が、テレビ等のメディアを通して日常的に行なわれていると同時に、地域社会の日常生活においても起こっている場合がある。本研究の課題名にあるように、一つの学区(校区)内に異体系アクセントが分布し、両アクセント地域の出身者が日常的に接触する学校が兵庫県姫路市立夢前町にある、姫路市立鹿谷中学校と同菅野中学校である。また、姫路市家島町の家島と坊勢島のアクセントは明らかに異なるアクセントで、地元の人間同士でもその違いを明確に意識している。 鹿谷中学校の場合、同市立前之庄小学校が京阪式アクセント地域、同山之内小学校が垂井式アクセント地域で、両校の卒業生が中学校で合流していた。しかし、本研究の開始と期を同じくして、姫路市立山之内小学校が閉校となり、前之庄小学校と合流した。したがって、今回の調査研究においては、山之内小学校の卒業生には垂井式アクセントの特徴が、弱くなりつつも残ってはいるが、小学校入学という今後は早い時期から京阪式アクセントと接触することにより、また影響力の大きさから、京阪式アクセント化が進む可能性が大きい。 本研究においては、最終的なアクセント変化の動態・動向に関する研究成果を示すまでには至らないが、アクセント調査の新しい方法として、タブレット端末に直接調査結果を入力する方法を試行した。多くの課題が残るが、アクセントという閉じた体系の中では、回答の種類が少数に限定されるため、調査と同時にデータ入力ができ、調査後の資料整理に要する時間が大幅に短縮できる見込みがついた。 夢前町・家島町の方言アクセントについては、すでに昭和63年度の科学研究費による研究成果を報告したが(『兵庫県中播地方方言アクセント資料』)、本研究ではその改訂版を作成・刊行した。それに加えて新たに家島町坊勢方言の自然談話資料を作成中であり、今後の両町域におけるアクセント研究の基礎資料となる。
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