本研究では、Cook(2001)の唱えるマルチコンピテンス理論の日本の英語教育現場での検証を目的とするものである。Cookは外国語習得においては、外国語を学ぶことにより母語の力も延ばすことができる、すなわちマルチコンピテンスとなりうると説く。本研究では、英文ライティングを学ぶことにより、日本人の学習者が、英文が本質的に内包している「論理的文章構成」を体得し、英文ライティングで培った論理的思考力や表現力がマルチコンピテンスとして学習者の能力の一部となり、それが必要に応じて母語、すなわち日本語での作文やプレゼンテーション力へも転移が可能であるという仮説の実証を試みることを目的としている。 22年度は本研究者がサバティカルでイギリスで研究する機会を得たので、理論的、文献研究のみならず、このマルチコンピテンス理論の提唱者であるCookと何度か膝を交えて協議することができたことが収穫であった。 また、実証研究としては、大学及び中学校において日本語作文、及び英文ライティングのサンプルを採ることができた。実証授業として、中学校及び大学の授業において、英文構成法に焦点を当てた授業を展開した。そこで得られたデータ分析から、学生たちは単に英文構成という面で上達しただけでなく、日本語の文章においてもより説得力のある文章を書くために、英文構成でよくつかわれるレトリックを使用している点が見られた。したがって、英文構成法がマルチコンピテンスとして学習者の中に形成されたのではないかと考えら得る。これらの結果を分析し、学会で発表するとともに、論文にまとめた。論文は2本査読付きで採用され、23年度出版される予定になっている。
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