本年度は、以下の3つの方向性において研究計画を実施した。 1.鹿児島県奄美名瀬の教育会館において保存されている、社会運動史家の松田清氏が長年にわたって収拾した郷土史料(通称「松田文庫」)の整理作業を行なうな中で、名瀬において2度にわたり研究会を開催し、郷土史としての奄美史と史学としての地域史の接点を探る作業を行なった。参加者は沖縄史専攻する冨山一郎(大阪大学)、台湾史の駒込武(京都大学)、アイヌ史の小川正人(北海道立アイヌ民族文化センター)、沖縄史の鳥山淳(沖縄国際大学)、朝鮮史の板垣竜太(同志社大学)、2010年に奄美沖縄現代史にかかわる著作を刊行した森宣雄(聖トマス大学)などの研究者に加え郷土史家で、奄美において住民運動を担った森本眞一郎、郷土史家の佐竹京子、また1960年代末沖縄闘争を担った松島朝義が参加した。こうした横断的な研究会において奄美の主体性構築にかかわる歴史記述に歴史学が史料読解を媒介としてどのようにかかわるのかについて、密度の高い議論がなされた。 2.上記の史料整理ならびに議論をふまえ、どのような携帯の史料集の刊行が可能かについて、京都において3度ほど研究会を開催した。参加者は上記の冨山、駒込、小川、鳥山、板垣の他、岩波書店編集部の小島潔が参加し、郷土史と歴史学を架橋するような史料集としてどのような編集作業が可能かについて検討した。 3.上記二つの作業の中で見えてきた歴史認識をめぐる葛藤の問題をふまえて、日本史の枠組みを批判的に検討し、東アジアにおける歴史記述ならびに共有できる刊行物の可能性について議論をするため、韓国ソウル、ならびにシンガポールにおけるシンポジウムならびに共同研究会に参加し、報告した。
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