研究概要 |
昨年度は,縄文遺跡から出土したクリ材を用いて,縁辺部の同一年輪を共有するブロックから30x30x10mm3の木片を複数個切り出し,一部に100%のPEG(三洋化成,PEG-4000S)溶液を含浸させた.含浸木片,非含浸木片について,酸-アルカリ-酸(AAA),蒸留水,アセトン,ベンゼンで洗浄処理を行ったのち14C年代測定を実施した.その結果,アセトンと蒸留水がPEG除去効率がよいことが判った.そこで,PEG含浸処理を行った木片について,蒸留水による水洗処理を行うごとに試料を分取してそれを14C年代測定して,洗浄の回数<最大100回>と14C年代の推移を調査した.その結果,水洗処理回数20回程度で飽和に達し,それ以上の洗浄回数を増やしても14C年代は変化しないことが判った.また,その飽和に達した14C年代はPEG処理を行わない段階の木片の14C年代に比べて150年(14C年)程度古くなり,これはPEGが,炭素比にして約2%残存していることに相当する.含浸したPEGを完全に除去することは難しい. 木材に残留するPEGの定量を熱分解ガスクロマトグラフ質量分析(Py-CG-MS)を用いて試みた.装置は名古屋工業大学の装置を借用した.検量線を求め,洗浄処理を行った木片についてPy-CG-MSを用いてPEGの残存量を推定し,検量線と比較したところ残留するPEGの量は実際よりも少なく見積もられた.木片中のすべてのPEGが熱分解されていない可能性が示唆され,今後は,熱分解の諸条件(加熱温度,など)を検討する必要があることが判明した.本研究の結論としては,いったん含浸したPEGは,木片から完全に取り除くことは困難であるそのためPEGの残存率を推定して14C年代を補正することが不可欠である.PEGの残存率を高精度に推定する方法を確立するために,さらに研究を進める.
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