最後の年である3年目は、写真・映像の利用と民族誌記述に関わる理論的研究に関する取りまとめを行った。特にデジタル映像技術を利用することで何が可能となるのか、その映像記録の実践やその活用実践をふまえながら研究を進めた。 具体的には日本文化人類学会第46回研究大会(2012年6月22-23日)で分科会「展示による社会的関与は人類学に何をもたらすか」を組織した。また自らの発表「協働でつくる編集過程」を発表し、デジタル映像技術の活用によって応用映像人類学事業として国内および調査地において昨年度の展示報告を行った。特に研究者がいわば文化の翻訳者として調査地と研究者との母国との間の国際・市民交流を実践すること、また展示の際に関わるデザイナー等の職業的専門家との資料への解釈が、異文化理解を実現するうえで重要なこと、彼らを含めた調査地の被調査者との協働によって、人類学における応用的方法論が開拓できることを学会員に向けて提示した。 また写真・映像と民族誌記述の関係についての方法論・理論的研究に関わっては、「旅する写真展示と協働の意義:調査地と母国をつなぐ応用映像人類学の試み」と題して、京都人類学研究会2013年3月例会(京都大学)において報告した。応用映像人類学や公共人類学の研究史を振り返りながら展示実践を位置づけ考察した報告をこのなかでデジタル映像技術利用が公共人類学および応用人類学においてその研究領域を拡張することを明らかにした。 結論としてこの研究事業を通して、デジタル技術を導入することで、写真・動画双方に関わる映像をつかった応用人類学のフィールド調査を自ら実践できた。さらにそこに当事者や職業的専門家を含めた協働作業が入るための方法とその意義について理論的に明らかにすることができた。
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