本年度は、日本に住むイスラームの少数派であるイスマイーリー派の間でのネットワークの実態を、インタビューを通して明らかにした。具体的に述べれば、出身地に住む者との関係を送金や贈り物といったモノの移動を通して、その関係がどのように維持されているのかに関するデータを得た。さらに、日本に住むイスマイーリー派のモノの移動は、出身地に向けてだけではなく、教団組織に向けても行っていることを、聞き取り調査から明らかにし、この教団がグローバルに再分配している実態について、文献調査を通して析出した。 さらに、グローバルなイスラームネットワークの実態を明らかにするために、フランスとモロッコに住む者へのインタビューを行った。フランスは北アフリカ出身移民が多く住んでおり、イスラームを国教としているモロッコにおいても同じムスリムの間でもイスマイーリー派は少数派であり、彼らが他のムスリムとは一線を画しながら生活していることを明らかにした。具体的に言えば、イスラームの集団礼拝の場であり、情報交換をするモスクには行くことはなく、そのためにイスラーム教徒のネットワークに入ることは少なかった。彼らにとっては、イスラームネットワークよりも、他宗教の同国出身者とのネットワークの方が生活をするうえで重要な役割を果たしていることが明らかとなった。 このような調査結果は、本研究の目的であるイスラーム少数派のグローバルなネットワークを研究する上での基礎的な情報を得られたと考えられ、また、宗教的少数派の生活戦略を一般的な理論を考察するためにも重要な寄与をすることが出来ると考える。
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