本研究は、次の2つの問題に最初の着想を得ている。すなわち、①イスラム家族法の適用は、いわばシャリア裁判所の専属管轄と考えられる。そのため、日本の裁判所がイスラム家族法を適用することは、当該イスラムの観点からすると認められないのではないか?②日本の裁判所がイスラム家族法を適用することができるとしても、法の適用には解釈が不可欠となる。しかし、イスラム法の知識の習得が必ずしも前提とならない日本の裁判官がイスラム家族法の解釈・適用を技術的に行うことができるのか?である。 まずこれらの問題の適否を文献およびインタビューを通じて、検討した。イスラム法学者の多くの意見は、①②の双方について、日本の裁判所がイスラム法学者の意見を聞いて正確な情報に基づいて行うとすれば、日本の裁判所がイスラム家族法を適用することに問題はない、というものであった。もっとも、宗教裁判所と世俗裁判所が分かれている国においては、日本の裁判所がイスラム家族法を適用することに否定的な意見もあった。現実の流れとして興味深い試みがフランスでなされていた。すなわち、イスラム法をフランス法に編入しようとする意見である。実現の可能性は近未来においてはかなり低いと思われる。もっとも、イスラム教徒の数がイスラム国でない国において一定程度増えてくると、イスラム法をその国の法に編入しようという動きがでてくることを示すものと思われる。実現すれば、その国は、いわゆる人的不統一法国になる。日本はまだ外国人、そしてイスラム教徒の数が多いとはいえない。しかし、将来にあり得る問題として予め検討しておく必要があるのではなかろうか。 これらの問題について一定の私見を有するに至り、研究期間は終了した。
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