本研究は,偏見,予断を持つメンバーによって構成される「隠れたプロフィール」型の裁判課題において,メンバーが妥当な判断をするためにどのような方策をとればよいのか実験社会心理学的視点から提言を行うことを目的としている。具体的には①教育場面で使用される話し合い技法が効果を持つのか否か,②問題解決に成功する集団と失敗する集団の特徴に違いがあるのか否か等を検討した。 平成23年度までに実施した小集団実験において,上記の話し合い技法導入の効果が統計的に有意なものでなかったことから,平成24年度においては追加的な実験を行った。「隠れたプロフィール型」の裁判員課題は,①討議メンバーの初期選好が正しい答えとは別である,②メンバー間の情報の共有と精緻な構成が必要である,という性質を持つ。この②を排除し,課題難易度を下げた実験を行ったところ,実験的な操作(ラウンドロビン技法の導入)の効果は統計的に有意なものではなく,「話し合い技法」の効果は明らかとならなかった。 一方,これまでのデータの集積から,問題解決に成功・失敗した集団の性質について一定の傾向があることも示された。例えば,メンバーの初期選好が「無罪」「有罪」で拮抗している集団の場合,正解に達成することができたのは,「話し合い技法」を導入している場合であった。 以上より,「話し合い技法」の導入で,予断,偏見を乗り越えた妥当な判断にいたるといった効果は示されなかった。しかし,集団内の初期選好の構成と「話し合い技法」導入の間に一定の肯定的効果があること,および,少なからぬ集団において不適切な結論(無罪であるのに有罪と判断してしまうケースが存在すること)が示されたことから,裁判員裁判といった集団による問題解決において,妥当な結論にいたるための技法開発の余地と必要性はあるものと考えられる。
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