1.当初の計画に則り、研究創作物の保護を個別の契約によらずに保護する枠組みの可能性とあり方について検討した。 2.研究創作物の移転に関する契約(MTA)による研究創作物の保護の延長線上では、no-MTAのコンソーシャム的な枠組みをスタンフォード大で提唱しており、その実態について調査を行うことができた。大学間の契約の存在によって当事者機関間の移転につき、あたかも著作権保護でカバーされるような効果が得られるメリットがある。この方法は少なくとも非営利の移転については充分なものと思われたが、契約機関を増やさないと実効性が低い。当面の手段として、日本の大学にこれを広める努力を行うこととし、全国の大学に対して呼びかけを行っている。 3.研究創作物を不正競争防止法で保護することについては、本法が営業秘密以外にデッドコピーやドメインネームなど多様な射程範囲を持つことから、必ずしも不可能ではないとの結論に至ったが、日本だけそのような法改正を行うことは非現実的と考えられた。 4.研究創作物の著作権保護に関しては、米国の動向を調査した結果、遺伝子配列の保護については文学的著作物の保護としてコンピュータープログラムの保護との類似性を真摯に追求する研究がなされていた。特に最近は遺伝子工学の進歩により遺伝子配列の創作性も各段に向上しており、今や遺伝子工学の成果を著作権で保護できない理由のほうに無理がある状況に至っていると考えられた。 5.遺伝子の著作権保護は、結果として抗体やタンパク質も含む研究創作物の主要部分をカバーできる。また遺伝子自体についても、その特許保護については海外でも権利範囲を狭く見たり成立性を否定する判決が出ている中、コストパフォーマンス的にも課題がある。従って遺伝子を著作権によって保護する妥当性について、今後再検討する必要性がある。本研究では、その基礎的な考え方を整理することができ、大変有意義なものとなった。
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